2008年7月29日火曜日

立ち位置

20年以上前のことです。ボランティア協会の講習で「老人ホーム」の実習がありました。お風呂の介助でした。実習仲間は全員半ズボンにティーシャツ姿になって、お年寄りの入浴を手伝いました。

仲間の一人に、仕事を息子さんに譲って悠々自適の男性がいました。仕事から離れてしばらくたっているとおっしゃっていましたが、ゆったりした旦那さんの雰囲気のある方でした。

次から次にお年寄りが浴室に入ってきます。一人ずつ背中を流し、身体を洗って、湯船に入ってもらいます。足元のおぼつかない人、何を言ってもまともに動いてくれない人、湯船から出てくれない人。大浴場は混雑の極みでした。

その中で、「旦那さん」は一人のお年寄りの背中を一生懸命洗っていました。他の人よりずっと時間をかけて洗っていました。

実習終了後の反省会で、「旦那さん」が言いました。「今日、私の人生が変わりました。知らないお年寄りの背中を流していて、涙が止まりませんでした。親父のことを思い出していたのです。こんな風に背中を洗ってやりたかった・・・そう思うと辛くて辛くて・・・これからは元気でいる限り、お年寄りたちのお役にたつことをやっていきます。」

気楽なご隠居さんでいられたはずの方が、ボランティアの講習会を受けようと思いたち、その中で自分がやるべきことを見つけたとおっしゃたのです。自分の立っている場所、「立ち位置」が変わったのです。

あの講習以降、「旦那さん」にはお目にかかっていません。あれからも「お父さんの背中」を見つけて励んでいらっしゃったんだろうな、そう思います。

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