2016年7月6日水曜日

劈(ひら)くということ

竹内敏晴さんのお名前を友人に教えてもらったのはもう随分昔のこと。小さな講演会でお話を聞いたこともありました。「からだ」と「ことば」の関連性をメインテーマとして、演劇の指導でも有名な方でした。

広い部屋の端に立って、「向こう側」でこちらに背中を向けて立っている人に呼びかけます。立っている人は本当に「呼びかけられた」と感じたら振り向きます。もちろん大きな声を出さないといけません。でもただ声が大きいからといって、相手が振り向いてくれるとは限りません。

何度も何度もやっているうちに、「ふっ」と、振り向いてくれることがあります。呼びかけている人に「呼ばれた」と感じるからです。なぜ振り向く時と振り向かない時ができるのか。

竹内さんは「呼びかける人のからだが劈(ひら)かれていないと、本当にことばは伝わらに」と言います。相手に話しかけるとは、相手に働きかけ、相手を変えようとすることだからです。もちろん「自分の思う通りに変えてやろう」ではありません。

自分の思いを言うだけでは本物の会話は成立しない。からだ全体、こころも含めて話しかけなければならないのです。

幼少期に耳のトラブルで「聞こえない」経験が長かった竹内さんが、聞こえるようになってから、人々の会話がことばを投げ合っているだけに感じたことが、その後の活動の原点だったといいます。

聞こえることが当たり前として、単にことばを届けるだけでなく、まず自分を「劈く」こと。そこから本当の会話がスタートするようです。

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