人が何かを考えるのに、ことばは絶対条件です。ことばを使って頭の中で、時にはこころの中で、あれこれ考えているのが私たちです。もしそのことばが見つか らなければ、うまく組み立てられなければ、「私」はどこにいってしまうのでしょう・・・
「ことばの迷子」という表現を朝日新聞で見まし た。「日系の子 ことばの迷子」という見出しでした。
バブル経済末期の1990年、出入国管理法が改正され、日系2世や3世とその家族に 就労制限のない日本滞在が認められ、出稼ぎの南米日系人が急増。2007年末には、外国人登録者数が31万7千人に達しました。ですが、世界同時不況の嵐 が吹き抜けると、その人たちが、真っ先にクビを切られることになったのです。
日本に行けば稼げる・・・という希望を持ってやってきた人た ちの多くが、現在、母国への帰国か、日本に残るかの選択を迫られています。経済的理由から、ブラジル人学校に通えなくなって、日本の学校にも行かないこど もたちが増えているとも聞きます。日本語を十分に理解できない生活の中で、犯罪に手を染めていくこどもたちも出て来ているようです。
日本 語も母語も、いずれも満足に話したり読み書きしたりできない「ダブルリミテッド」の子の問題が各地で浮上している・・・と記事の中にありました。ダブルリ ミテッドとは初めて聞く表現です。バイリンガルの対極をなすことばのようです。
「ヒトの脳をつかさどる中枢は、最初に習得する言語をもと に第二言語を学習していく仕組みになっている。母国語すらおぼつかない段階で他の言語を教えて も、脳が混乱して中途半端になるだけ」(京都大学霊長類研究所の正高信男さん)
英語の早期教育に疑問を呈(てい)する発言ですが、なぜ 「ダブルリミテッド」のこどもたちができてしまうのかを説明している文章だと思います。
母語のポルトガル語を親としっかり話し、そこから 日本の社会に適応するための日本語能力を身につけていく。それができなかった多くのこどもたちは、これからどうやってものを考えていくのでしょうか。
好 景気の折の人手不足に対応するために法改正をしたのは日本の政治家であり、その労働力を利用したのが日本の経済界です。その結果、ダブルリミテッドのこど もたちができてしまったことに対して、誰も責任を負うことはないのでしょうか。人間の存在の根幹となる「思考力」が身についていないこどもたちをたくさん 作り出してしまったというのに。
神奈川県横須賀市に、日本語ができない外国人少年を集めた日本で唯一の少年院があり、そこの「国際科」で は、日本語や日本での生活の知識を教えているそうです。
「私の人生は今始まります」。つたない字で書いた19歳の少年の日記の文章に、小 さな光を見た想いがしました。
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