歴史小説「見残(みのこ)しの塔」の作者、久木綾子(ひさぎあやこ)さん。70歳で山口市の瑠璃光寺の国宝の五重塔と出会い、この塔に関するエピソードの 取材に14年、執筆に4年をかけ、89歳で作家デビュー。
「遅咲きの作家」という表現がありましたが、80歳後半の「遅咲き」の作家は聞いたことがありま せん。
この本を読んだわけでもない私が、新聞の紹介記事に強く引かれた理由は、彼女の生き様です。
1919年(大正8年)生まれの久木さんは女学校卒業後に初めての小説を書いています。戦争中に、松竹大船撮影所で、映画の紹介文などを書く仕事を3年し、その後結婚。
穏やかなご主人が「女性がちゃぶ台で四角張(ば)って書いているの、好きじゃないな」という一言で、「書く」ことを中断。ずっと専業主婦。そして70歳の時に、ご主人が亡くなり、五重塔との出会いとなります。
久木さんを紹介する新聞の記事から「規矩」ということばを知りました。「きく」と読みます。コンパスとものさし、という意味から、考えや行動の基準となるもの、という意味だそうです。
五重塔を建てた職人たちの生き方から彼らの「規矩」を学んだとあります。「彼らは自身の人生においても、自らのコンパスとものさしを使って、持って生まれたものを測り、なすべきことをしながら生きた」
そ して久木さんご自身にとっての「規矩ある生き方」とは、
「私自身も時代や環境に応じて、できることをやってきました。そのささやかな生の積み重ねが、私の 規矩となったのかもしれません。私は小説を書き始めながら一度やめました。でも考えてみると、この年齢になったからこそ五重塔と巡り会えたし、小説に書き 残せたような気がします。“見残しの塔”という小説は、私自身の規矩で選び取る、組み上げてきた、私にとっての「塔」なのかもしれません。」
穏やかな表情の中に、稟(りん)とした生き方を感じさせる久木さんの写真。良き先輩女性に会えたようで、こころがはずんだ私でした。
PS: 今年の3月、NHKラジオ深夜便の「こころの時代」に出演されているようです。お名前を検索すると、あちこちのブログに掲載されていました。
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