2008年8月20日水曜日

人さま

随分以前のことですが、婦人科の病院で「・・・様」と名前を呼ばれ、一瞬自分が呼ばれていることに気がつきませんでした。最近では、病院での「患者様」扱いは普通になっていますが、その頃はまだ耳慣れない言い方でした。

「・・・様」とはもちろん相手を尊敬する、もしくは「たてる」呼び方ですが、病院で患者を「様づけ」で呼ぶことには、どうも抵抗があります。「・・・さん」でいいのではないかなと思うのです。「形」の上で「様づけ」にしても、使っている人の気持ちが入っていなければ、それはかえって「あざとい」呼び方であるような気がしてならないのです。

私が小さい時から一緒に暮らした母方の祖母は明治生まれの「言葉」に厳しい人でした。「きたない言葉」には容赦ありませんでした。東京で育った祖母には、京都弁も「いい言葉」には聞こえなかったようで、亡くなるまで50年以上も京都に住み続けたのに、最後まで「江戸言葉」のままでした。

その祖母が「人さま」という言葉をよく使っていました。「人さまに申し訳ない」「人さまを粗末にしてはいけないよ」・・・そんな言い方をしていました。祖母の使った「人さま」は今思い出しても、何とはなしに「ホンワカ」した言い回しでした。昔の日本人が持っていた他者への思いやりが言葉に響いていたのかもしれません。

私が「言葉」に対して普通以上に興味を持ち、こだわるのも、祖母と暮らした日々があったからだと思います。古い言葉を一杯聞かせてもらっていたことがとても幸せだった、そう感じるこの頃です。

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