何年前だったでしょうか。祇園の小さな美術館、志村ふくみさんの展覧会に行きました。エレベーターを降りた時、正面に展示されていた茜(あかね)の赤い無地の着物に目が釘付けになりました。両側に並んだ他の色の無地の着物を従えたようなその存在に、その場にしばらく立ち尽くしていたことを思い出します。
京都国立近代美術館で開催中の志村ふくみ ―母衣(ぼろ)への回帰―へ行ってきました。
今回も無地の着物が並んでいました。四季に分けられた「小裂帖」(こぎれちょう:織物の残り裂を集めたもの)の小さな布も十分な存在感。年齢を重ねた後の作品のモダンなこと。草木染めの穏やかな色調にこころがなごみます。志村さんに染色を教えた実母小野豊(とよ)さんの着物や、親交を重ねた「民芸」の作家達(黒田辰秋、富本憲吉)の作品もありました。
花が咲くの前に切られた桜の枝は淡いピンクの色を出す、と以前志村さんの本で読んだことがあります。季節を感じながら、草や木の命を色に移し替えていく作業。志村さんの全てが表現されている作品たちに圧倒された展覧会でした。
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